40周年記念特別インタビュー

新時代の礎築いた2010年代を振り返って

数々の国際会議で磨いた知識と経験で大阪経済に活力を!

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元理事長

葛本 惠英さん

2013年、大阪国際経済振興センターは国の公益法人制度改革にともない、財団法人から一般財団法人に移行。さらに、大阪市がインテックス大阪の事業運営者の選定を目的に実施した「公募型プロポーザル」に参加し、運営権を勝ち取り、財団とインテックス大阪は40周年を迎えることができました。まさに新生インテックスの生みの親である元理事長の葛本惠英さん(在職期間:2010年〜2014年)に当時を振り返っていただくとともにメッセージをいただきました。

財団法人から一般財団法人に移行した経緯を教えてください。

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当時、全国的に実施された公益法人制度改革で、対応を迫られた私たちは何度も議論を重ねました。この時、財団法人に提示された選択肢は「公益財団法人」または「一般財団法人」の二択。

ところが、私ども同様に見本市や展示会を運営する施設を例に挙げると、「東京ビッグサイト」をはじめ、「幕張メッセ」や「パシフィコ横浜」も株式会社として運営しています。

ですから、公益財団法人・一般財団法人のどちらかを選ぶという議論に加え、「私どもも株式会社を目指すべきではないか」という意見も多くありました。

一方、関東から視野を国内全域に広げると、福岡・北九州・名古屋の大規模展示会場はインテックス大阪と同じく財団法人でした。

悩みに悩んだ結果、最終的には出捐者の問題や、定款策定などのスケジュール的な問題を理由に株式会社は実現困難であると判断。

一般財団法人と公益財団法人という二つの選択肢の中から、より自由度の高い一般財団法人を選択した次第です。

一般財団法人となり、よりフレキシブルな経営が可能となったことで、
どのようなメリットがありましたでしょうか。

平成25年4月、大阪国際経済振興センターは一般財団法人に移行することができました。これにより、収益事業から生じた所得は法人所得税の課税対象になりました。

移行後、一般財団法人への移行認可の申請に当たり作成した「公益目的支出計画」を実施するため、内閣府の厳密なチェックを受けなければならなくなりました。担当職員の皆さんは本当に大変なご苦労をされたと思います。

その反面、一般財団法人となったことで経営の自由度が高まり、ワンストップサービスの実現など一体的で柔軟な組織運営が可能となりました。

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公募型プロポーザルへの対応を迫られた結果、
どのようにして運営権を勝ち取ることに成功されたのでしょうか。

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インテックス大阪が昭和60年(1985年)に竣工した際、財団法人をつくって運営しようということになりました。すなわち、財団の職員達はインテックス大阪を運営するために雇用されていた訳です。

それなのに、2010年頃からの大阪府・大阪市の行政改革にともない、ここの運営を外郭団体に長年、任せ続けているのはおかしいという理由で公募になりました。

もしも別の事業者がインテックス大阪の運営権を獲得してしまえば、財団の職員たちは皆、路頭に迷ってしまいます。そんなことは絶対に避けなければなりません。インテックス大阪の運営権を何としてでも勝ち取る、そう決意した私たちには乗り越えなければならない壁が二つありました。

ひとつ目の壁は保証金問題。インテックス大阪は大阪市の普通財産であったため、行政財産に適用される指定管理者制度を活用できませんでした。

すなわち、大阪市と賃貸借契約を結ぶため、一般的に不動産を借りる際に敷金が必要なように数億円の保証金を現金で先払いする必要があることがわかりました。

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私たちは、あらゆる銀行に頭を下げて回りましたが、どこも担保なしでは貸せないの一点張り。ところが、池田泉州銀行だけが「分かりました。貸しましょう」と言ってくれたんです。

これで保証金の件については目処が立ったのですが、私たちの前には第二の壁が立ちはだかっていました。それが「公募型プロポーザル」です。インテックス大阪の運営権を他の業者と競って勝ち取らなければなりませんでした。

しかし、率直に言って当時の私どもは技術面の管理が脆弱でした。

そこで、当時、ここの維持管理業務を委託していた鹿島建物総合管理株式会社の支社長と話をしてジョイントベンチャーを組みました。財団がソフト部分(管理運営)を担い、ハード部分(施設維持管理)は鹿島建物が担当することで、より柔軟な施設運営が可能となりました。

それだけでは弱いと考え、「国際的な見本市のノウハウを取り入れよう」ということで、世界最大級の製造業のための国際展示会「ハノーバー・メッセ」などを運営するドイツメッセの日本法人ハノーバーフェアーズジャパン株式会社に提携を持ちかけ、了承を得ることに成功しました。

さらに、日本の見本市のノウハウも取り入れるため、トレードショーオーガナイザーズ株式会社(現:株式会社イノベント)とも提携。加えてもう1社、PRも含め、メディアを使ったパブリシティなどの部分をサポートしてもらうため、清水の舞台から飛び降りるつもりで株式会社電通へ出向いて何度も交渉し、提携にこぎつけました。

プロセスでは数多くの企業に断られましたが、私が自ら先頭に立って考え走り回った結果、最終的にこの5社がいわば「インテックス大阪運営の5本の矢」となり、公募型プロポーザルでは僅差で運営権を勝ち取ることができました。

大阪・関西のポテンシャルについてどのようにお考えでしょうか。

大阪のポテンシャルに関しては、私見ではございますが、右肩下がりで推移していると言っていいでしょう。

確かに今は、大阪・関西万博や大阪IRなどのハード事業が増加しているため、数字上では少し持ち直しているでしょうが、これは短期的な上昇に過ぎません。長期的な視点で見ていくと大阪経済はリーマンショックから回復してきているだけで成長していない訳です。しかも、今後伸びていく産業が何かあるかと言ったら実はない、という状況です。

確かに今、インバウンドが大阪経済にちょっと活気をもたらしていますが、こんな一時的なブームに頼るのではなく、やはり軸となるような産業を興していかないと大阪はどんどん衰退していくと思っています。

そこで、このインテックス大阪という資源を使い、見本市や展示会をどんどん開催することで、大阪の街も活性化していくと思うんですよね。

私が理事長に在職していた2012年の話ですが、金融界では世界最大級の国際会議とされ、世界中の金融エグゼクティブたちが集う「Sibos(サイボス)2012」をインテックス大阪で4日間の日程で開催したんですね。これが、とても大変でした。Sibosを主催するのはSWIFT(国際銀行間金融通信協会/本部ベルギー)という団体。世界中の銀行など金融機関同士を結ぶ送金インフラを運営しており、国際送金の際に欠かせないシステムとなっています。

すなわち、世界経済の中心的な国際会議をインテックス大阪で開催してもらおうと誘致した訳です。SWIFTとの契約では、会議室1室、展示室の使い方など、細かいこと全てに契約書が必要で、契約書の厚みが3cmぐらいになりました。しかも一枚ずつサインしなければなりません。英語と日本語と両方あり、全部で何百ページもありますから、何回サインしたかわからないぐらい。そんなに必要なのかと思いましたが、その時に先方から言われたことは「これが国際取引の常識」の一言でした。

もちろん、私より職員の皆さんが大変でしたけれども、Sibosを経験したことで実績や経験を積み重ねることができ、G20大阪サミット2019などさらに大きな国際会議や国際見本市を経験し、職員の皆さんも成長していったんですね。中でも、G20大阪サミットについては、私は横から見ていただけですけれど、立派にやり遂げたことを誇りに思います。その後の国際見本市の誘致・開催にもつながっています。

このような国際会議や国際見本市など世界規模の展示会を恒常的に続けていけば一つの起爆剤になり、その中から起業の動きも出てくるでしょう。そういう意味で、このインテックス大阪の事業には相当、期待しています。近年、インテックス大阪で開催している見本市の数は増えているのだから、そういうものをどんどんやっていくことが大事だと思います。

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今後の大阪国際経済振興センターとインテックス大阪にどのようなことを期待しますか。

世間では大多数の人が「今はインターネット全盛期。見本市なんて前時代的」と言うけれども、私は「絶対そんなことない」と確信しています。

AIの登場以後、いろいろな産業が衰退していますが、そんな中、見本市産業には可能性があります。まだまだ伸びると思っています。なぜなら、人と会って、実物を見て、触れて、担当者と熱のあるコミュニケーションをしながら共にひとつのことを決定する。単価がいくらで、「結局なんぼでやってくれるんですか」といった、もう少し突っ込んだ話をする。ビジネスの規模が大きければ大きいほど、私たちは、このプロセスがどれだけ重要なのかを目の当たりにしてきました。たとえ、バーチャルで触感や質感、匂いまでわかるようになったとしても、一度も会わずに巨額の契約を結べますか。国際詐欺やなりすましのような犯罪から大阪の企業を守るためにも、経費をかけて見本市を開催する意義は大きいと思います。もちろん、お互いの信用・信頼にもつながります。

特に、財団の大きな強みは「国際部」を持っていることです。国際部は、外国からの企業誘致活動や、日本企業と外国企業とのマッチングのほか、大阪とアジア・太平洋地域を中心とした経済交流活動をきめ細かく展開しています。企業向けセミナーや見学会を実施したり、国内外の企業に精通した調査コンサルティング会社などを活用して対大阪投資が有望な企業情報の収集・誘致も行ったりしています。また、専門家による海外ビジネス相談などを通じて大阪の中小企業の国際ビジネス活動を支援しています。さらに、日本国籍以外の職員も多数在籍していますので今後、世界規模の国際見本市をインテックス大阪で開催できるだろうと考えています。

とりわけ、このような国際見本市や展示会を積極的に誘致していくことで大阪・関西経済は発展できると思っています。インテックス大阪は、すでに誕生から40周年ですので施設は古くなってきていますから職員の方は大変だと思いますが、これまで事故もなく安全に見本市・展示会・国際会議を実施してきた実績を誇りに、40周年を機にもっと頑張ってもらえたらと思います。

また、施設の大型改修が予定されていますが、中のスタッフの強化やレベルアップ、労働環境の改善についてもお願いしたいところです。なぜなら、見本市産業の振興には、もっと「人」の魅力、「人」のアピールが必要だと思うからです。国際部の国際交流や企業誘致活動、運営スタッフのおもてなし対応や配慮といった展示会ノウハウ、皆すばらしいものを持っています。これらを一層高めながら、大阪・関西のより一層の経済活性化に貢献してほしいと思います。

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